企業にとって過重労働はなぜ損なのか? |
2005年3月12日更新
1.はじめに
事業所とビジネスパースンにとって、本能みたいな長時間勤務!
率直に言って、管理人も「仕事大好き人間」で、ついつい働きすぎちゃいます。
なんせ、「巨人の星」とか「アタックNO.1」の世界で育ったもんで、がんばれば、頑張るほど報われる、いい仕事ができるっていう思いが、骨の髄まで染み込んでいるのですね。
でも産業医学では、長時間勤務(=過重労働)は、生産性*の面からいうとダメなんですね。全然ジャスト・イン・タイムではなくなるのです。
注)労基署関係のリスク管理面については述べません。そういう野暮なこと(それは、それで大事ですが)は、ここでは書きません。
でも、その前に長時間勤務のメリットを書かないと、非科学的になりますね。
2.長時間勤務のメリット
もちろん、企業にとって長時間勤務のメリットはありますよ〜!
@設備投資分を早く回収できる
現代では技術の進歩が早いから、産業医学によっては、ハードウェアである機械や設備はあっというまに陳腐化してしまいます。たとえば5年前30万で買ったパソコンは、今じゃ、数万以下の価値しかありません。同じように、モノをつくる装置も同じように価値が下がる場合、早く回収しなければ、利益は出せません。
勢い、長く働いてもらい仕事のアウトプットを、「より早く、より多く」作ったほうが、儲かるわけです。
つまり、製造業のイロハであるQCDS(Q:品質 C:価格 D:納期 S:付加サービス)のうちのCとD、つまりは価格と納期の面で長時間勤務はメリットがあるのです。
A労務費を削減できる
次の長時間勤務のメリットは労務費を削減できることです。
問題 時給が同じならどっちがお得?
A. 10時間はたらくビジネスパースンを3人雇う
B.15時間はたらくビジネスパースンを2人雇う
もちろん、ここではサービス残業はしないという前提です。
もちろんBですよね。時給が同じであっても、断然Bがお得です。
同じじゃないかって?
違いますよ〜。
会社にとっては健康保険、雇用保険、お年の方は介護保険、年金なんてかけなくてもいいから。福利厚生費や健康診断の料金、そして退職金などなど
Bの方が3分の2で済んじゃう!
契約社員とか、ぱーとも同じですよ。1.5倍はたらく人を2人雇うほうが、採用のためのコスト(募集費用、面接時間)などが少なくて済む。
3人を労務管理するより、2人を労務管理する方が、手間ひまやリスクが少なくて済む。
B収入が増える
もちろんビジネスパースンにとっては、長くはたらけば収入が増えるのです・・・当たり前か。
以上のように従来は長時間勤務のメリットはあった・・・かつては。
3.長時間勤務のデメリット
@品質の低下
しかし、その事は、ビジネスの上で品質が保たれていることが前提になります。
安かろう、早かろう、しかし悪かろうではユーザーからそっぽを向かれます。
そうならないように、「品質作りこみ」とかで頑張ったり、ミスや不具合を起こしたら、罰金制度で厳しく精度管理する・・・などということをやってきました。
しかし・・・
度を過ぎた長時間になった上に
1)ダウンサイジングで、ベテランのエンジニアが現場から減った
2)組織のフラット化で、工程管理や品質管理関係の管理職が、プレイングマネージャーになって、マネジメント力が落ちた
ということで、品質のレベルがガッタガタになりました。
管理人の私事を言いますが、某社の2000円台のイヤホン、3回買って、3回とも3ヶ月未満で壊れたのです。
2個 L側が聞こえなくなった 1個 ガワが外れてアロンアルファで付けざるを得なかった
Aヒューマン・エラーの増加
品質の低下に似ていますが、もっと悪いことで仕事上のミスや事故です。
設備産業では致命傷だし、自動車産業では開発などの上流工程のミスは会社を潰します。
ソフト産業でもシステムのセキュリティー、脆弱性など、ある意味、製造業以上に打撃が生じます。
企業同士の損害賠償請求訴訟も増えています。
過重労働でヒューマンエラーがなぜ増えるかというと、簡単です・・・睡眠不足になるからです。
産業医学の研究によると、残業が月60時間を越え始めると、多くのビジネスパースンでは睡眠時間が減ってくるのです。
Bメンタルヘルスの悪化
労働時間とメンタルヘルスの悪化の関係はまだ十分検証されていません。
しかし、「過重労働・メンタルヘルス対策の在り方に係る検討会報告書」によれば
精神障害等の労災補償状況を見ると、請求件数、認定件数とも近年増加しており、そのうち未遂を含めた自殺の労災認定件数は年間40件に及んでいる。これら精神障害による自殺の労災認定事案の分析結果をみると、平成14年度以前に労災認定された51件の事案のうち、27件において月100時間以上の時間外労働時間が認められ、長時間労働が心の健康にも大きく関与していることが考えられる。また、企業における過重労働対策の効果に関する研究結果によれば、回答のあった176人の産業医等のうち長時間労働を行った者に対する面接等の結果、当該労働者を医療機関に紹介したことのある産業医等は全体の37.5%であり、そのうち59.1%の産業医等が労働者を抑うつ状態と診断して医療機関を紹介した経験があった。
ということです(下線は筆者)。
メンタルヘルスの悪化は企業収益に打撃をもたらすというのは、このサイトをご覧の皆様にとっては、周知のことと思います。
Cビジネスパースンのモラルの低下
そんなこと恥ずかしくて、ここには書けません・・・拙著をお読み下さい。
D疲れきって現状に甘んじる
過重労働の患者さまを診察していると、もう、改革とかイノベーションなどとは別の世界。
いっぱい、いっぱいで毎日をようやく過ごしていくという状態です。
創造性などとは縁がないので、「企業価値」は下がっていきます。
4.はたらいた時間分が利益になる状況ではない
@売り上げは利益ではない
長時間はたらけば、確かに製品やサービスというアウトプットは増えていきます。つまりは売り上げは増えますね。
しかし、売り上げは利益ではないのです・・・・もちろん会計学の初歩でいえば
利益=売り上げー経費だから、労務費や材料費を下げていれば利益は増えます。
しかし、製品の品質が悪化していけば、自動車産業や先のイヤホンを作った会社(最近トップが変った)に見られるとおり、
売り上げは減るし、リコールや改修、サポートの費用が増えていくのです。
メンタルヘルス悪化の経費も大きいのです。
そういう経費はバカにならないのです。
高度成長時代では、売り上げはほとんど利益になりましたが・・・・
Aマイナスの付加価値が売り上げも減らす
再びQCDSに戻ると
これらは決して独立したパラメーターではないのです。
いくら納期が早くて、価格が安くても、品質が悪ければ、先に述べたように売れなくなる。
デザインは格好良いけれど壊れやすい、小さいけれど不具合がすぐ出るということになれば、
それはマイナスのS てゆーか、マイナスの付加価値になってますます売れなくなります。
つまり 品質の悪化が、マイナスの付加価値を呼んで、売り上げが落ちていく。
5.そろそろ本能的から抜け出す時代
というわけで、大競争時代の現代こそ、過重労働という本能、あるいはポイズン(毒)から抜け出して、真の生産性を追及する時代といえましょう。
ましてサービス勤務などは、ドーピングですね。